
沖縄観光に訪れる多くの方々が、“海の初心者”であるという現実。
プロガイド歴33年の相川浩一がそれに気づいたのは、何万人ものお客様と向き合う中で、ある共通の“表情”を見続けてきたからだ。
「楽しみにしてきたけど、ちょっと怖くて…」
「子どもには体験させたいけど、自分は泳げないんです」
そんな言葉を何度も耳にした。
初めて見る沖縄の青い海。その美しさに惹かれてやってきたはずが、ハードルの高さに不安を感じ、結局体験せずに帰る人たちも少なくない。
“せっかく来たのに、美ら海水族館だけで終わってしまう”──
そんな方々の背中を、何度見送ってきただろう。
「本当は、海の感動を味わってもらいたい。だけど、今のツアーの多くは“初心者には優しくない”。」
そこから、相川の泳げない人向けの設計思想が動き出した。
【第1章】不安の正体を見つめる

「海に行ってみたい。でも不安」
その理由を丁寧にひも解いていくと、いくつもの“目に見えない壁”があることに気づいた。
・海の深さが怖い
・泳げないことが恥ずかしい
・器材が不快・怖い
・ガイドが話しかけてくれない・見てくれない
・誰にも頼れず置いてけぼりになる不安
特に多かったのは、ボートで出るツアーで船酔いしてしまった、という声。
海に浮かぶだけで何も見られなかったり、怖くて水に入れなかったり。
「子どもには自然体験をさせたい。でも、自分が不安だと、付き添えない」
そんな葛藤を抱える親御さんの気持ちも、何度も感じてきた。
【第2章】“笑顔になるための安心”を設計する
そうした不安や失敗をもとに、天然水族感ツアーでは**20の安全・安心対策**を徹底して設計した。
波のない天然のラグーン、安全な時間帯、足がつく浅瀬、2歳からの器材対応、プロガイドの寄り添い、フロート完備…
AED、露天シャワー、メンタルサポートも揃えて、まるで“海の保育園”のような空間を作った。
「大人2人が掴まっても沈まないフロート」や「-4まで対応の度付きレンズ」など、ディテールへの配慮も抜かりない。
それは“どんな人でも、初めての海を笑顔で終われる”ための設計。
安全対策の背後には、相川の経験と、「絶対に嫌な思いをさせたくない」という想いが込められている。
【第3章】初心者とは、“心がまだ海に慣れていない人”

「初心者とは、ただの“未経験者”ではありません。
心がまだ、海に対して安心できていない状態なんです」
そう語る相川にとって、初心者とは特別な存在だ。
お客様のほとんどが、実は初心者。
「2歳のお子さんも、70代のご夫婦も。どんな人も、最初は初心者。
僕たちの使命は、“その一歩”に寄り添うことだと思ってます」
初心者が笑顔になると、その周囲にも笑顔が広がる。
親が安心すれば、子どももリラックスできる。
おばあちゃんが楽しそうなら、家族全体がほっとする。
笑顔には、連鎖がある。
【第4章】ちーちゃんとお母さんの物語
ある日、参加してくれた“ちーちゃん”という5歳の女の子。
恥ずかしがり屋で、海が怖くてお母さんにしがみついて泣きそうになっていた。
でも、お母さんも泳げない。だけど「ちーちゃんには海を見せたい」と思って、勇気を出して来てくれた。
まずは、ちーちゃんの目線にしゃがんで、やさしくごあいさつ。
いきなり海には行かない。
「ほら、波があそこで止まってるんだよ」
「お魚さん、あそこにいるの見えるかな?」
ゆっくりとスーツを着て、少しずつ距離を縮めていく。
顔をつけるのも、ほんの3秒でいい。
できたら「すごいね!」って、しっかり褒める。
その時ちーちゃんが、水の中の魚に夢中になって目を見開いた。
お母さんが安心して笑った瞬間──3人の表情が重なって、“感動”が生まれた。
【第5章】寄り添えるガイドを育てたい

ガイドに必要なのは、泳ぐスキルや魚の知識だけじゃない。
“人を見る力”、そして“心を感じる力”が大切。
「お客様の表情、呼吸、目線、仕草、会話のトーン」
それらから不安を察して、先回りして声をかける。
「無理しないでいいですよ」「大丈夫、そばにいます」
たった一言で、緊張がほぐれることもある。
相川はスタッフにこう伝えている。
「**常に、お客様の感情を意識して、行動を見て対応しよう**」
それが、初心者を笑顔にできる“本物のガイド”だから。
【終章】水族館よりも簡単で、感動する体験へ

このツアーは、まだ進化の途中。
もっと簡単に、もっと手軽に、誰でも楽しめるように。
目指すのは、「泳げない人でも、安心して“海に入る水族館”」
見て、感じて、笑って、ちょっと感動して──
それが人生の“記憶に残る幸せ”になるように。
未来には、ジョン万パーク構想やリトリート沖縄など、広がるビジョンもある。
でも、原点はいつも同じ。
**「目の前の初心者が、笑顔になる瞬間をつくる」**
それが、相川浩一と天然水族感の“設計思想”だ。